「ここもうすぐ空きますよ」
有楽町のコーヒーショップ内で席を探す、
お年を召したお二人に、そう声を掛けた。
ただそれだけのことなのに、
どうして、こんなにもの幸福感をぼくは感じているのだろう。
たった1分ほどの時間だったけれど、
たくさんの会話をしたように感じる。
スーツケースを引くぼくに
「どこに行って来たの?」
「わたしも10年ほどまえにバリに行ったわ」
「素敵なところよね」
「明日はとても冷えて、雪が降るらしいわよ」
「バリ帰りのあなたには堪えるわね!」
「わたしたちの暮らしが美しくなりました」
別れ際、
白いひげを窘めたダンディズムをリアルに表現したような旦那さんが、
ぼくの手元にあった松浦弥太郎さんのエッセイ本の帯にある
「それは、あなたの暮らしを美しくする魔法」を見るなり、そう言葉を添えてくれた。
「ぼくもこんなかっこいい大人になりたい」
そんなことを思いながら次の目的地につま先を進めた。
あ、でも
「どちらからですか?」というぼくの質問に、
「東京と横浜からなの」と答えたところを思い出すと、
彼女たちはカップルだったのかもしれない。
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